ほとりのかほり

〜大人も子供も〜

伊藤万理華『ガールはフレンド』

それは、他の何にも代え難い多幸感に包まれた30分だった。

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 11/27の深夜にTOKYO MXにて放送された『ガールはフレンド』

元・乃木坂46伊藤万理華と劇団ロロ所属の望月綾乃、さらにはニコフィルム所属の松澤匠を迎えたキャストで描く、30分間のシチュエーションコメディドラマ。さらに脚本に三浦直之(ロロ)、監督・脚本にはラップグループENJOY MUSIC CLUBの”M”こと松本壮史といった豪華布陣。おまけに主題歌がCHAIときたものだから、まさに「センキューポップカルチャー全般!」と感謝せずにはいられない。 

100%未来 (feat. 三浦直之)

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  • Enjoy Music Club
  • ポップ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 物語は伊藤万理華演じる”まり”の部屋で進行する。”まり”の部屋に居候することになった望月綾乃演じる”りか”という年上の女性。この”りか”という女性が、実は松澤匠演じる”まり”の彼氏”ボン太”の元カノ、つまりは「今カレの元カノと同居」という設定が、このシットコムのテーマ。”まり”にとってみたら本当に最悪、最悪である。

大胆な演出などは一切無し、一定のシチュエーションでひたすら"ことば”と”ことば”をぶつけ合うことで繰り広げられる会話劇。過度な演出で誤魔化しの効く、普通のそれよりも高いスキルが要求されることは間違えない。しかし画面の中の彼彼女たちはまるで舞踊しているかのようにそれぞれの役柄を乗りこなしていた。特に「南米の黄色い何の匂いかよく分からない極上のスープ食べたい」伊藤万理華さん、めちゃめちゃ踊ってた。

 

独特な言い回しや表現で交わされるセリフ群の中で、特に印象に残ったのが、”まり”が口にしたこのセリフ。

"そう”を取っていこう。"いい人そう"から"そう"を取ったら、"いい人"なわけでしょ。"かわいそう"から"そう"を取ったら、可愛くなれるよ。 

あまりにも乃木坂時代の彼女の生き方そのもので、思わず息を呑んでしまった。"そう"という客観的・他者からの形容をもろともせず、自分自身の在り方を断固として持ち続けた彼女だからだからこそ、どこか説得力のある言葉だ。フィクションのなかで突然、真理を突きつけられてしまうことにどうしても弱い。

 

伊藤万理華さん、表情の作り方が絶品で、決してことばでは形容することのできない表情を見せるときがあるのですが (これがまた何とも絶品)、今回見せたこの表情。

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1ヶ月の同居生活を終え、"りか"が家を出て行くシーン。口では「もうちょっとでわたしはひと月ぶりの静寂を手に入れられるのだから」と言いつつもどこか名残惜しそうな素振りを見せる"まり"が、別れ際にみせた表情。これだけで彼女たちの一ヶ月間がどのようなものであったかを汲み取ることができる。かつて宇田川フリーコースターズが完成させた『epoch TV square』というシットコム番組で、最後の最後に日村が見せたあの表情を想起させる。

 

 

他にも、「好きな時代は?」のクイズに対して飛び出た「飛鳥時代!」という回答や、"りか"の「えっ、アメイジングなんですけど」「その遠回りコースほんと好きだよね」といったセリフまで、、どこか乃木坂を匂わせた脚本が本当に愛おしすぎる。というか、いつの間にか二人にとって"まり"の家への道が"帰り道"になっているという事実がもう...。

 

とにかく本当に素晴らしい30分間だった。シリーズ化されることを切に願いながら、今年いっぱいはしばらく『ガールはフレンド』のことを考えることをやめられなさそう。伊藤万理華さんのカメラに愛されるセンス、それに呼応するような技量。感服。松本壮史監督×乃木坂のコンビもこれからまた見れたらいいなと。