ほとりのかほり

〜大人も子供も〜

lyrical school『BE KIND REWIND』

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最高・最高・最高だ。女性ヒップホップアイドルグループ lyrical schoolは前作『WORLD'S END』から約1年と2ヶ月というスピードでこんなにも美しいアルバムを完成させてしまった。その名は『BE KIND REWIND』。ミシェル・ゴンドリーの傑作『僕らのミライへ逆回転(英題:Be Kind Rewind)』から引用されたこのタイトル。

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快活な女の子たちはまるで「とにかくパーティーを続けよう」とでも言わんばかりに、この最高な夜の永遠を望む。誰もがかつてダンスフロアで抱いたその強い気持ちが、このアルバムには痛いほど詰まっているではないか。『BE KIND REWIND』という作品は我々にノスタルジックなひとときを想起させるとともに、さりげなく"グッバイ・サマー(これも上記監督の大傑作!)"と、ひと夏の終わりを告げる。

 

 

lyrical schoolの楽曲を語る上で欠かすことができない、リリックのあちらこちらで散見されるサンプリング。その引用ラインは余りにも絶妙な均衡性を保つ事で成立し、思わず唸ってしまうようなキラーフレーズがきちんとした構造でもって埋め込まれているのだ。

『秒で終わる夏』では、さりげなくSPEEDのあの名曲のフレーズが差し込まれ、自転車の立ち漕ぎで感じる浮遊感を、"魔女宅のトンボ" に置き換えている。ラジオから流れる「夏ベビ」とは前作収録の『夏休みのBABY』のことであろうか。

また、くるりが『ハイウェイ』の中でおよそ100もの回答を出してしまった「私たちが旅に出る理由」を、彼女たちは「それはつまり(夏!)」なんて潔く解決していたりして。あまりにも正しいではないか。結局のところ「誰のせい?それはあれだ!夏のせい!」で完結してしまう。risanoの「ブリンブリンに輝く太陽に」のラップの抑揚は、かせきさいだぁのエッセンスを継承している気がする。

『大人になっても』に関しては、もうそのタイトルからしてニクい。小沢健二スチャダラパーの間に結ばれた『大人になれば』と『大人になっても』という関係性は20年という時を越えて、新たな名曲を誕生させてしまった。「みんなはまったノマノマ イェイ」というリリックはある意味、アルバム通して一番のパンチラインでしょう。

原曲への忠実な愛が詰まった、今作唯一のカバー曲『LOVE TOGETHER LAP』もめちゃくちゃに好きだ。ラップ詞のライティングにはサイプレス上野ZEN-LA-ROCK。サザンのタイトルを引用する時に「いなせなロコモーション」を選ぶところ!これ!この絶妙加減よ…。

最後のトラック『REW)PLAY(FF』では、ディアンジェロに始まりSMAPフィッシュマンズブルーハーツからのサンプリング…溢れんばかりのポップカルチャーへの愛。彼女たちのルーツや、今はもう居なくなってしまったあの人たちの最大限のリスペクトが込められている。僕らが飲み会で酔っ払うと必ず口にしてしまう「あの5人の歌聞きたいな」なんて本音を、リリスクはこんなにも素晴らしい楽曲へと昇華させてしまったのだ。しかも5人で。

lyrical schoolはこのアルバムの中で、夏や夜に対して途切れない永遠を求め続ける女の子たちを描いた。しかし、どんな夏も季節が過ぎれば秋となり、どんなに最高な夜もいつかは終わり朝がやってくる。

アイドルがアイドルとして生きる期間を"夜"と言い換えるとすれば、彼女たちは今まさに、真夜中のダンスフロアで呼吸をしている最中。"朝"が来るまでもう少しだけ時間がある彼女たちが紡ぎ出すリリックには、終わりが来ることに駄々をこねるような幼稚性と、結局はそれをどこか理解し受け入れているような達観した部分との、両方の側面が見て取れる。メンバーの脱退、数々の戦友たちの解散を見届けてきた彼女たち。5人体制となって以降、ファンの規模が徐々に拡大しつつあるこのタイミングで昨年の『WORLD'S END』に続き満を持して投下された今作『BE KIND REWIND』の意義、それは卒業した全てのアイドルへの鎮魂歌だ。

そんなことを考えているとつい、先日乃木坂46を卒業した桜井玲香さんのことを思い出してしまったりしてしまう訳で。特筆すべきは『LAST DANCE』のそのリリック。

最後の曲が流れだしたら

いつも通り終わっていくから

来週なんて今は Future

最終的にいなくなっちゃう

なんて真理めいた言葉の連なりは、乃木坂ドキュメンタリー映画を観た後だと、大園桃子さんの声で再生されてしまうし

少しさみしくなるけどまた会えたらいいね

それじゃまたね

なんて部分に至っては、この間の神宮のライブで桜井さんが最後の去り際で零した言葉と完璧に一致してしまう。彼女の歌う、あるユニット楽曲のタイトルが『Rewindあの日』であることも、ただの偶然とは思えない。あの日3人が乗っていた車で流れていたカセットテープはきっと『BE KIND REWIND』だ。

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とにかく、夏が完全に過ぎ去ってしまう前に、このレコードを擦り切れるまで聴き倒そう。歌詞カードをボロボロになるまで読み込もう。友達にオススメしたり貸したりなんかしちゃって。「返す時にはキチンと"Be Kind Rewind"でね」って。