#ベストアルバム2019
50位 TOOL『Fear Inoculum』
49位 Ariana Grande『thenk u, next』
48位 V.A『Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990』
Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990
- 発売日: 2019/02/15
- メディア: MP3 ダウンロード
47位 Dave Harrington Group『Pure Imagination, No Country』
46位 Toro Y Moi『Outer Peace』
45位 Beirut『Gallipoli』
44位 Glen Hansard『This Wild Willing』
43位 RAS『RAS』
42位 Cate le Bon『Reward』
41位 Aaron Abernathy『Epilogue』
40位 Long Beard『Means to Me』
39位 JPEGMAFIA『All My Heroes Are Cornballs』
38位 Rozi Plain『What a Boost』
37位 Stella Donnelly『Beware of the Dogs』
36位 OGRE YOU ASSHOLE『新しい人』
35位 Jordan Rakei『Origin』
34位 Jimi Somewhere『Ponyboy - EP』
33位 マヒトゥ・ザ・ピーポー『不完全なけもの』
32位 FKA twigs『MAGDALENE』
31位 Floating Points『Crush』
30位 J.LAMOTTA すずめ『Suzume』
29位 Official髭男dism『Traveler』
28位 踊ってばかりの国『光の中に』
27位 Bon Iver『i,i』
26位 SPOOL『SPOOL』
25位 FINAL SPANK HAPPY『mint exorcist』
24位 Thom Yorke『ANIMA』
23位 Kindness『Something Like a War』
22位 3776『歳時記』
21位 James Blake『Assume Form』
20位 Stats『Other People's Lives』
19位 black midi『Schlagenheim』
18位 片想い『Liv Tower』
17位 Tyler, the Creator『IGOR』
16位 Coldplay『Everyday Life』
15位 細野晴臣『HOCHONO HOUSE』
14位 Vegyn『Only Diamonds Cut Diamonds』
13位 Lucy Rose『No Words Left』
12位 BROCKHAMPTON『GINGER』
11位 (Sandy) Alex G『House of Suger』
10位 THE NOVEMBERS『ANGELS』
9位 Leif Vollebekk『New Ways』
8位 小沢健二『So Kakkoi 宇宙』
7位 lyrical school『BE KIND REWIND』
6位 Whitney『Forever Turned Around』
5位 Alice Phoebe Lou『Paper Castles』
4位 Kanye West『JISUS IS KING』
3位 ミツメ『Ghosts』
2位 Billie Eilish『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』
1位 Loyle Carner『Not Waving, But Drowning』
小沢健二『彗星』
2019年10月9日。スピッツ、嵐(一部楽曲)、鈴木茂のストリーミング配信が解禁され、Official髭男dism、渋谷すばる、BABYMETAL、DAOKOの新譜が発売。つい先日、欅坂46東京ドーム2days公演のラストに投下された『角を曲がる』の配信。元アンジュルムの和田彩花は自身がフランス語を混じえて作曲したソロ楽曲を発表。かたやPOPEYEでは「いま、聴きたい音楽ってなんだろう?」特集が組まれ、Mac DeMarcoが自身のプレイリストにドンキーコングのサントラを入れてたり、SuperorganismのOronoがTyler The Createrに手紙を送ったりしてる。「音楽」というテーマによって幸福に満ちていた日。今まで動くことのなかった"ある部分"が変わり始める予感がした。
その二日後、日本列島に台風が上陸した。メディアは災害情報一色に染まり、Twitterのタイムラインには避難所のアナウンスが流れる。レストランやスーパーは閉店、食料が消えすっからかんになったコンビニの棚。「食うこと、生きること」だけを考えなくてはならない時が、あまりにも突然にやってくるということを呆然と、痛感した。音楽や映画などの"カルチャー"というものは、動物的生命活動を前にしてはただの副産物、二の次、三の次でしかないということをハッキリと突き付けられてしまった。
食料や水を買い溜めすることができず、ただ部屋の中でこの一夜を耐えることしかできない。窓を叩きつける激しい雨風の轟音、その振動がこころに直接揺らぎをかける。この夜をなんとか乗り越えれば清々しい朝がやってくる、という希望すらも持てなかった。机に積み上げられた大量の本や未聴のCDに手を付けることができず布団の中でただじっと篭っていた僕に、ふと、その前日に配信開始されたあの曲が浮かんだ。
小沢健二『彗星』
小沢健二が10/11に突如ドロップした一曲。この曲を再生すること。それで何かが変わるとも思わなかったけれど、気がついたらSpotifyの再生ボタンを押していた。台風が到達する前、初めてこの曲を聴いた僕は本当に嬉しかった。前述した通り、突如大きく動き始めた音楽全体としてのムーブメントを後押しするような、単純な悦びを感じた。その日の夜には酒の席で友人にこの曲のことをひたすら語っていた。きっと本当に嬉しかったんだ。
ところが、台風のさなかにこの曲を流してみると、そこには"生きること"への喜びはもちろん、"音楽"や"映画"、全てのカルチャー、サブカルチャーに対する賛美、この曲を聴く人、聴かない人、それに纏わる自然、例えば太陽、光、雲、もちろん雨や風に対しても、それら全てに対して拓かれた祝祭があった。音楽に対する業界の態度なんかよりももっと大切な、本当に基本的な「生きるための音楽」が描かれているのである。小沢健二はこの曲を「聴き狂ってください。」というメッセージとともに世に放った。狂乱とともにある祝祭。
しかもこの祝祭は、かつて『LIFE』で表された、あのどこか物憂げで粛々とした空気の漂う空虚な祭りではなく、単に音の大きさや楽器の数などでは表現しきれない、完璧に開ききった、それこそ作り手本人が心の底から踊ることを求めている祭りだ。そこに刻まれたリリックはあまりにも素直で等身大、あの頃の彼や彼女たちが如実に書き写されている。
阪神大震災や地下鉄サリン事件の1995年。同年に小沢健二がリリースした『強い気持ち・強い愛/それはちょっと』『さよならなんて云えないよ』『痛快ウキウキ通り』といった活気に満ちたシングル群は、後の2003年にベスト・アルバム『刹那』という、余りにも心苦しいタイトルに纏め上げられる。『彗星』にて、彼はこの年を「心凍えそうだったよね」と振り返る。
しかし、そんな「冬」に対して、彼は逆説的に次のように述べる。
だけど少年少女は生まれ
作曲したり録音したりしてる
僕の部屋にも届く
という、音楽という文脈における"未来"の発生を讃える一節だ。近年の活動で共演したSEKAI NO OWARIや満島ひかり、峯田和伸や三浦大知はもちろんのことだが、僕はここで敢えて長濱ねるの存在を挙げたい。
この二者のあいだに直接的な関わりはなくとも長濱ねるは、小沢健二回のSONGSを見て、ブログにこんな言葉を残している。
ほろほろと紡ぎだされる美しい言葉、!
全て書き留めておきたいほど説得力があり、スーッと心に溶け込んでいきました。
何回も見てます、、。
( 長濱ねる 公式ブログ 2017年10月22日付「とっくりニット、240」)
読む度に、その句点の使い方にときめいてしまう。また、今回の小沢健二のアートワークを撮影した新津保建秀は奇しくも、欅坂46ファースト写真集『21人の未完成』の長濱ねるパート『録音部の少女』においても撮影を担当している。
小沢健二の新しいアートワークは新津保建秀による撮影。長濱ねる『録音部の少女』もこの方による仕事。その関係の必然性はまるで「だけど少年少女は生まれ 作曲して 録音したりしてる 僕の部屋にも届く」 pic.twitter.com/7i5YoTNeo8
— キムラ (@kimu_ra10) 2019年10月11日
このあまりにも美し過ぎる偶然のような必然性に、目をつけられないポップカルチャーオタクが居るだろうか。小沢健二が今作で描いた"未来"とは、ひょっとすると"長濱ねる"も含まれていて、そんな彼女もいつか彼のように、カムバックする"未来"があるのでは…と期待してしまう。きっと録音したりして、僕の部屋にも届くといいな。
(ちなみに長濱ねるが生まれたのが1998年、小沢健二が日本での活動を休止し渡米した年でもあるという、これまた偶然とは思えない一致)
lyrical school『BE KIND REWIND』
最高・最高・最高だ。女性ヒップホップアイドルグループ lyrical schoolは前作『WORLD'S END』から約1年と2ヶ月というスピードでこんなにも美しいアルバムを完成させてしまった。その名は『BE KIND REWIND』。ミシェル・ゴンドリーの傑作『僕らのミライへ逆回転(英題:Be Kind Rewind)』から引用されたこのタイトル。
快活な女の子たちはまるで「とにかくパーティーを続けよう」とでも言わんばかりに、この最高な夜の永遠を望む。誰もがかつてダンスフロアで抱いたその強い気持ちが、このアルバムには痛いほど詰まっているではないか。『BE KIND REWIND』という作品は我々にノスタルジックなひとときを想起させるとともに、さりげなく"グッバイ・サマー(これも上記監督の大傑作!)"と、ひと夏の終わりを告げる。
lyrical schoolの楽曲を語る上で欠かすことができない、リリックのあちらこちらで散見されるサンプリング。その引用ラインは余りにも絶妙な均衡性を保つ事で成立し、思わず唸ってしまうようなキラーフレーズがきちんとした構造でもって埋め込まれているのだ。
『秒で終わる夏』では、さりげなくSPEEDのあの名曲のフレーズが差し込まれ、自転車の立ち漕ぎで感じる浮遊感を、"魔女宅のトンボ" に置き換えている。ラジオから流れる「夏ベビ」とは前作収録の『夏休みのBABY』のことであろうか。
また、くるりが『ハイウェイ』の中でおよそ100もの回答を出してしまった「私たちが旅に出る理由」を、彼女たちは「それはつまり(夏!)」なんて潔く解決していたりして。あまりにも正しいではないか。結局のところ「誰のせい?それはあれだ!夏のせい!」で完結してしまう。risanoの「ブリンブリンに輝く太陽に」のラップの抑揚は、かせきさいだぁのエッセンスを継承している気がする。
『大人になっても』に関しては、もうそのタイトルからしてニクい。小沢健二とスチャダラパーの間に結ばれた『大人になれば』と『大人になっても』という関係性は20年という時を越えて、新たな名曲を誕生させてしまった。「みんなはまったノマノマ イェイ」というリリックはある意味、アルバム通して一番のパンチラインでしょう。
原曲への忠実な愛が詰まった、今作唯一のカバー曲『LOVE TOGETHER LAP』もめちゃくちゃに好きだ。ラップ詞のライティングにはサイプレス上野とZEN-LA-ROCK。サザンのタイトルを引用する時に「いなせなロコモーション」を選ぶところ!これ!この絶妙加減よ…。
最後のトラック『REW)PLAY(FF』では、ディアンジェロに始まりSMAPやフィッシュマンズ、ブルーハーツからのサンプリング…溢れんばかりのポップカルチャーへの愛。彼女たちのルーツや、今はもう居なくなってしまったあの人たちの最大限のリスペクトが込められている。僕らが飲み会で酔っ払うと必ず口にしてしまう「あの5人の歌聞きたいな」なんて本音を、リリスクはこんなにも素晴らしい楽曲へと昇華させてしまったのだ。しかも5人で。
lyrical schoolはこのアルバムの中で、夏や夜に対して途切れない永遠を求め続ける女の子たちを描いた。しかし、どんな夏も季節が過ぎれば秋となり、どんなに最高な夜もいつかは終わり朝がやってくる。
アイドルがアイドルとして生きる期間を"夜"と言い換えるとすれば、彼女たちは今まさに、真夜中のダンスフロアで呼吸をしている最中。"朝"が来るまでもう少しだけ時間がある彼女たちが紡ぎ出すリリックには、終わりが来ることに駄々をこねるような幼稚性と、結局はそれをどこか理解し受け入れているような達観した部分との、両方の側面が見て取れる。メンバーの脱退、数々の戦友たちの解散を見届けてきた彼女たち。5人体制となって以降、ファンの規模が徐々に拡大しつつあるこのタイミングで昨年の『WORLD'S END』に続き満を持して投下された今作『BE KIND REWIND』の意義、それは卒業した全てのアイドルへの鎮魂歌だ。
そんなことを考えているとつい、先日乃木坂46を卒業した桜井玲香さんのことを思い出してしまったりしてしまう訳で。特筆すべきは『LAST DANCE』のそのリリック。
最後の曲が流れだしたら
いつも通り終わっていくから
来週なんて今は Future
最終的にいなくなっちゃう
なんて真理めいた言葉の連なりは、乃木坂ドキュメンタリー映画を観た後だと、大園桃子さんの声で再生されてしまうし
少しさみしくなるけどまた会えたらいいね
それじゃまたね
なんて部分に至っては、この間の神宮のライブで桜井さんが最後の去り際で零した言葉と完璧に一致してしまう。彼女の歌う、あるユニット楽曲のタイトルが『Rewindあの日』であることも、ただの偶然とは思えない。あの日3人が乗っていた車で流れていたカセットテープはきっと『BE KIND REWIND』だ。
とにかく、夏が完全に過ぎ去ってしまう前に、このレコードを擦り切れるまで聴き倒そう。歌詞カードをボロボロになるまで読み込もう。友達にオススメしたり貸したりなんかしちゃって。「返す時にはキチンと"Be Kind Rewind"でね」って。
#2018年映画ベスト10
今年2018年に日本で劇場公開された映画を対象に選びました。
・・・
第10位『犬猿』(kenen)
監督 : 吉田恵輔
第9位『赤色彗星倶楽部』(The Red Comet Club)
監督 : 武井佑吏
8位『バッドジーニアス 危険な天才たち』(Chalard Games Goeng)
監督 : ナタウット・プーンピリヤ
7位『犬ヶ島』(Isle of Dogs)
監督 : ウェス・アンダーソン
6位『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』
監督 : 湯浅弘章
5位『寝ても覚めても』(ASAKO Ⅰ&Ⅱ)
監督 : 濱口竜介
4位『万引き家族』(Shoplifters)
監督 : 是枝裕和
3位『愛しのアイリーン』(Sweet Irene)
監督 : 吉田恵輔
2位『パンとバスと2度目のハツコイ』(Our Blue Moment)
監督 : 今泉力哉
1位『君の名前で僕を呼んで』(Call Me By Your Name)
監督 : ルカ・グァダニーノ
・・・
11位『レディ・バード』
12位『孤狼の血』
13位『カランコエの花』
14位『blank13』
15位『シェイプ・オブ・ウォーター』
16位『台北暮色』
17位『アイスと雨音』
18位『ペンギン・ハイウェイ』
19位『顔たちところどころ』
20位『止められるか、俺たちを』
北野日奈子『空気の色』
例えば通常盤のこの表紙を見て、松田聖子『ユートピア』のジャケット写真を思い出したり、
映画『アンダー・ザ・シルバーレイク』でプールに浸かり、主人公を誘惑するライリー・キーオを想起してしまう。プールとは限りなく非日常に近い。水面の揺らぎは青春の心情の揺らぎを如実に映し出す。
2018年の乃木坂46を語るうえで、北野日奈子という存在を欠かすことはできない。
今年3月の『乃木坂46時間TV』ちぎり絵をつくるコーナー。突然、星野みなみが「おいで~」とある人物を呼び込む。それが北野日奈子だった。前年11月に休業を発表してから、実に5ヶ月ぶりのサプライズ出演。その日、川崎の映画館で『バーフバリ 伝説誕生』を観ていた僕は、大満足で劇場を後にし、スマホを開くと同時にこの報せを知った。「帰ってきてくれた」という嬉しさとともにTwitterには、少し大人になった彼女の姿が映った画像が流れていた。乃木中やNOGIBINGOで周りから弄られ、誰よりも大きな声を出して喜怒哀楽を表していた彼女は、もうどこにも居ないような気がした。
4月の生駒里奈卒業コンサート、彼女は久々にファンの前に姿を表した。「任せてください!大好きです」と書かれたプラカードを持つ彼女の表情は、照れ臭さがありつつも実に清々しかった。
同期の相楽伊織の卒業を乗り越え、さらに今月の19・20日には、自身がセンターを務める『日常』を引っ提げたアンダーライブが行われた。僕は2日目を観た。ただただ圧巻だった。「任せてください」という、生駒との公約を早くも達成してしまっている彼女の姿だけがあった。我々の過度な心配はただただ不必要なのだと、彼女からハッキリとNOを突きつけられた気分になった。そして彼女はもうとっくに次のステージへと進んでいることを痛感するとともに、今までの自分を少しだけ反省した。
・・・
"反省"といえば、以前『夏休み子ども科学電話相談』にて「反省の"色"って何色ですか」という質問が投げかけられたことがある。純朴でくもりのない童心的な疑問ありながら、あまりにも芯を食っていて、どこか大人らしい様にも思える。こんな質問を投げかけるが如く「オトナ / コドモ」を行ったり来たりしながら、見るものに両極的な素振りを魅せる彼女が、今回我々に突き付けたテーマがそう、「空気の"色"」だ。
・・・
『空気の色』というタイトル。乃木坂メンバーの過去の写真集のタイトルと照らし合わせても、ここまで漠然としていて、意味難解な題は無いのではないか。それはそうである。空気に"色"なんてない。あったとしても、それは我々には可視化できないもので、決してこの目で見ることができない。このタイトルが意味するもの、それは
「見えない」ということ。
だと勝手に推測してみる。
例えば、乃木坂46『アンダー』という楽曲の中の一部分。
みんなから私のことが
もし見えなくても
心配をしないで
私はみんなが見えてる。
それからフィッシュマンズの大名曲『いかれたBaby』より
君は見えない魔法を投げた
僕の見えない所で投げた
そんな気がしたよ
The Fishmans - いかれたBaby (Ikareta Baby Live 1997) w/ lyrics
この2曲のフレーズはまるで我々ファンとアイドルが、どうすることも出来ないやるせなさの中で繰り広げる、どこまでも切ない対話のように聞こえてきてしまう。サニーデイ・サービスが「きみがいないことは きみがいることだなぁ」と歌っていたように、"いない"ということは、"いる"ことを強く意識させるし、"見えない"ということはもう、めちゃくちゃ"見える"ということなのだ。我々が彼女を見ることができなかった時間に、彼女はひとりで魔法を投げていたのかもしれないし、あるいは、部屋の右側の壁の端っこに背中をつけていたのかもしれない。いずれにせよ、それが"北野日奈子"だと信じ、我々にはそんな彼女に思いを馳せながらこの写真集を読むことくらいしかできないのだ。
・・・
この写真集は、彼女が何の躊躇いもないかのように髪を切るシーンから始まる。女の子が髪を切ることの意味は既に、堀未央奈が映画『悲しみの忘れ方』のラストシーンで証明済みである。
また"髪を切る"という行為において、我らが伊藤万理華の映像作品『伊藤まりかっと。』を忘れるわけにはいかない。
ここでもまた、"いない" ことが "いる" ことだと痛感する。
・・・
他にも、水着姿でプールの中から悪戯げな顔で覗いてきたり、ランジェリー姿でベットの上を飛び跳ねるショットからは、『台風クラブ』のアイツらの姿を重ねてしまう。
撮影も過酷だったであろう、雪上の野外で赤いランジェリー姿で佇むショットも。彼女の何とも言えないアンニュイな表情は、素直に赤に溶け込んでいる。ランジェリーの"赤"と雪景色の"白"の中間にあるのが北野日奈子の"色"だ。
・・・
『空気の色』は全体的に寒色なムードで描かれる。それは決してロケ地が北極圏だからとか、寒い時期に撮影されたからとかそんな気候的な要因とはまた違う、彼女が醸し出すムード。すなわち彼女の持つ"二面性"みたいなものによって生み出された空気感に満ち満ちていることが、この写真集を"たらしめる"ひとつの理由だと思う。
ハチャメチャにおどけていながら、実はとんでもなく真理をついたようなことを伝えてくるようなこの"二面性"。どこか坂本慎太郎の楽曲のテイストを思い出させる。
あなたもロボットになれる feat. かもめ児童合唱団 / 坂本慎太郎 (zelone records official)
『あなたもロボットになれる』という曲は、ゴキゲン・ウキウキなトラックの上に
不安や虚無から解放されるなら
決して高くはないですよ
ロボット
素晴らしいロボットになろうよ
という、強烈にシニカルな歌詞が乗っかっている。この気持ち悪いほど奇妙な噛み合わせが何とも言えない独特な気持ち悪さ、そして美しさを生み出す。
このように彼女が、<おどけてはしゃぐ表情> と <どこか真理めいたようなものを持つ表情> を行き来し、そこから共通項を見出そうとすればするほど、我々にとって本当の彼女とは一体何なのか、全く分からなくなってしまう。まさに "まともが分からない"のだ。
西野七瀬『風に着替えて』に小沢健二の『僕らが旅に出る理由』を重ねてしまったり、長濱ねる『ここから』を眺めていると岸田繁の声が聞こえてくるような気がしてしまうように ( 軽く病気みたいなところがある )、この『空気の色』からは、どこかコーネリアスの『あなたがいるなら』の世界に近い匂いを感じた。
Cornelius 『あなたがいるなら』If You're Here
冷たい感触のクリーンギターが、心情の琴線に触れるたびに振動する。『あなたがいるなら』を聴いていると、スウェーデンを旅する北野日奈子と、その周りを漂う"空気"までも体感しているような気分になる。 特にシンパシーを感じてしまうのが坂本慎太郎が書き下ろした詞。
ただ 見てるだけで
なぜ わけもなく
切なく なるのだろう?
動くだけで なぜ
意味も無く どき どき してくるのだろう?
あなたが いるなら
あなたが いるなら
この世はまだましだな
ほらね また だれか
きみの うわさ している
みんな きみを すきなんだ
なぜ 見てるだけで
いると わかるだけで
声を きいただけで
なぜ わけもなく
見てるだけで なぜ せつない
我々が勝手に抱いてしまっている彼女への想いではないか...と愕然としてしまった。そしてまた、彼女が目にした"見える"ものへと抱く想いとも重なるのではないか。
・・・
彼女は今回の写真集を通して、犬の殺処分や動物愛護についても目を向けて欲しいと訴えており、巻末のインタビューには「トリマーの資格をとって、犬を綺麗にしてあげたり、病気にかかってたらちゃんと治るように面倒をみてあげたりして、ゆくゆくは里親を見つけてあげたいです。」とも述べてあった。
最後に、先日のSHOWROOMで彼女は次のように語った。
私の宝物なので、全部。みなさんの宝物にしてください。そして世界の宝物にしましょう。
本当に素敵な表現なのはもちろん、嘘偽りない想いが純に伝わってくる。間違えない、2019年の北野日奈子は彼女自身のやり方で「空気の色」を読み解いていく。その先に待つのは他でも無い。自由で、何色にも染まることのない、彼女の色だ。
#ベストアルバム2018
今年もやってきたこの季節。昨年は国内と海外それぞれ9枚づつ、計18枚選んだのですが、今年は聴いた枚数も昨年に比べるとだいぶ増えていたので
⬇︎昨年の結果
#ベストアルバム2017
— キムラ (@kimu_ra10) January 13, 2018
国内 海外 pic.twitter.com/X2NYVFC9s8
今年は、2018年リリースのアルバム・EPから洋邦問わず、30枚選んでみました。
30. Jerry Paper『Like A Baby』
29. 落日飛車『CASSANOVA』
28. Joey Dosik『Inside Voice』
27. cero『POLY LIFE MULTI SOUL』
26. No Name『Room 25』
25. 曽我部恵一『ヘブン』
24. Ariana Grande『Sweetener』
23. Masego『Lady Lady』
22. Drake『Scorpion』
21. Joji『BALLADS 1』
20. 21 Savage『i am > i was』
19. Lil Wayne『Tha Carter V』
18. lyrical school『WORLD'S END』
17. Miink『Small Clan』
16. Maison book girl『yume』
15. Yves Tumor『Safe In The Hands of Love』
14. STUTS『Eutopia』
13. Phum Viphurit『Manchild』
12. boygenius『boygenius』
11. BTS (防弾少年団)『Love Yourself 結 'Answer』
10. Rejjie Snow『Dear Annie』
9. 三浦大知『球体』
8. Unknown Mortal Orchestra『Sex & Food』
7. Tom Misch『Geography』
6. Travis Scott『ASTROWORLD』
5. jorja Smith『Lost & Found』
4. Migos『Culture Ⅱ』
3. The 1975『A Brief Inquiry Into Online Relationships』
2. V.A.『Black Panther The Album Music From And Inspired By』
1. 宇多田ヒカル『初恋』
今年からApple MusicとSpotifyを両刀活用し、昨年よりも強固なサブスク体制で臨んだ2018年音楽ライフでしたが、結果いちばん聴いていたのは宇多田ヒカル。ほんとによく聴いた。他にもケンドリック監修のブラックパンサーサントラや、ドレイク、ミーゴス、トラヴィスといったラップシーン。その潮流を受け継ぎながらも自身のエッセンスを注ぎ込んだ曽我部恵一。トレンドやシーンへの理解を自分たちの音楽として、しっかりと表現したceroやSTUTS,三浦大知などの日本勢。どれも本当にたくさん聴かせていただきました。
伊藤万理華『ガールはフレンド』
それは、他の何にも代え難い多幸感に包まれた30分だった。
11/27の深夜にTOKYO MXにて放送された『ガールはフレンド』
元・乃木坂46伊藤万理華と劇団ロロ所属の望月綾乃、さらにはニコフィルム所属の松澤匠を迎えたキャストで描く、30分間のシチュエーションコメディドラマ。さらに脚本に三浦直之(ロロ)、監督・脚本にはラップグループENJOY MUSIC CLUBの”M”こと松本壮史といった豪華布陣。おまけに主題歌がCHAIときたものだから、まさに「センキューポップカルチャー全般!」と感謝せずにはいられない。
物語は伊藤万理華演じる”まり”の部屋で進行する。”まり”の部屋に居候することになった望月綾乃演じる”りか”という年上の女性。この”りか”という女性が、実は松澤匠演じる”まり”の彼氏”ボン太”の元カノ、つまりは「今カレの元カノと同居」という設定が、このシットコムのテーマ。”まり”にとってみたら本当に最悪、最悪である。
大胆な演出などは一切無し、一定のシチュエーションでひたすら"ことば”と”ことば”をぶつけ合うことで繰り広げられる会話劇。過度な演出で誤魔化しの効く、普通のそれよりも高いスキルが要求されることは間違えない。しかし画面の中の彼彼女たちはまるで舞踊しているかのようにそれぞれの役柄を乗りこなしていた。特に「南米の黄色い何の匂いかよく分からない極上のスープ食べたい」伊藤万理華さん、めちゃめちゃ踊ってた。
独特な言い回しや表現で交わされるセリフ群の中で、特に印象に残ったのが、”まり”が口にしたこのセリフ。
"そう”を取っていこう。"いい人そう"から"そう"を取ったら、"いい人"なわけでしょ。"かわいそう"から"そう"を取ったら、可愛くなれるよ。
あまりにも乃木坂時代の彼女の生き方そのもので、思わず息を呑んでしまった。"そう"という客観的・他者からの形容をもろともせず、自分自身の在り方を断固として持ち続けた彼女だからだからこそ、どこか説得力のある言葉だ。フィクションのなかで突然、真理を突きつけられてしまうことにどうしても弱い。
伊藤万理華さん、表情の作り方が絶品で、決してことばでは形容することのできない表情を見せるときがあるのですが (これがまた何とも絶品)、今回見せたこの表情。
1ヶ月の同居生活を終え、"りか"が家を出て行くシーン。口では「もうちょっとでわたしはひと月ぶりの静寂を手に入れられるのだから」と言いつつもどこか名残惜しそうな素振りを見せる"まり"が、別れ際にみせた表情。これだけで彼女たちの一ヶ月間がどのようなものであったかを汲み取ることができる。かつて宇田川フリーコースターズが完成させた『epoch TV square』というシットコム番組で、最後の最後に日村が見せたあの表情を想起させる。
まりの「マルトミの後、焼き鳥買って帰り公園で食べてかない?」と、設楽の「途中でよ、橘ちゃんも誘ってこうぜ」にも『そうと決まったらこれもどう?』みたいな共通項が。#ガールはフレンド pic.twitter.com/0q93W3miem
— キムラ (@kimu_ra10) December 2, 2018
他にも、「好きな時代は?」のクイズに対して飛び出た「飛鳥時代!」という回答や、"りか"の「えっ、アメイジングなんですけど」「その遠回りコースほんと好きだよね」といったセリフまで、、どこか乃木坂を匂わせた脚本が本当に愛おしすぎる。というか、いつの間にか二人にとって"まり"の家への道が"帰り道"になっているという事実がもう...。
とにかく本当に素晴らしい30分間だった。シリーズ化されることを切に願いながら、今年いっぱいはしばらく『ガールはフレンド』のことを考えることをやめられなさそう。伊藤万理華さんのカメラに愛されるセンス、それに呼応するような技量。感服。松本壮史監督×乃木坂のコンビもこれからまた見れたらいいなと。